頑是ない歌　中原中也

思えば遠く来たもんだ、十二の冬のあの夕べ港の空に鳴り響いた、汽笛の湯気は今いづこ

雲の間に月はいて、それな汽笛を耳にすると竦然（しょうぜん）として身をすくめ、月はその時空にいた

それから何年たったことか、汽笛の湯気を茫然と、眼で追いかなしくなっていた、あの頃の俺は今いづこ

今では女房子供持ち、思えば遠く来たもんだ、この先まだまだ何時までか、生きていくのであろうけど

生きていくのであろうけど、遠く経てきた日や夜のあんまりこんなに恋いしゆては、なんだか自信が持てないよ

さりとて生きてゆく限り、結局がんばる僕の性質（さが）、と思えばなんだか我ながら、いたわしいよなものですよ

考えてみればそれはまあ、結局がんばるのだとして、昔恋しい時もあり　そして　どうにかやっていくのでしょう

考えてみれば簡単だ　ひっきょう意志の問題だ　なんとかやるより仕方ない　やりさえすればよいのだと

思うけれどもそれもそれ　十二の冬のあの夕べ　港の空に鳴り響いた汽笛の湯気は今いづこ

　

　ＢＧＭ　海援隊　思えば遠くへ来たもんだ